吉田裕軌音(よしだゆきと)さんは、伊勢市立宮山小学校4年生(エントリー時は3年生)です。コンクールへの挑戦は今回が2度目。最高位となるのは初めてでしたが、手応えはあったと言います。三重県のご自宅から、お母様と一緒にインタビューに答えてくれました。
吉田裕軌音さん
裕軌音さんがフルートを始めて3年。音がきれいに鳴るようになってからは、まだ2年です。「『メリーさんの羊』が吹けるようになるのに1年かかりました。この子はだいぶ時間がかかって……初めは頭部管だけで音を出す練習をするのですが、なかなか音が出なくてつらそうでした」とお母さん。それでも、裕軌音さんは忍耐強く続けました。「音が出ないからやめようとは思わなかった。なんとしても音が出したかった。その気持ちが一番強かった」。だからこそ「音が出たときはうれしかった。いまではなつかしい思い出(笑)」と振り返ります。
昨年、初めて出場したコンクールで2位を受賞。今回は「金賞をとりたかったから」エントリーしました。全国大会での演奏は「じょうずに吹けたと思う。スラーやタンキングに気をつけて、間違えないように吹きました。納得のいく演奏だったから、金賞がとれると思っていました」と裕軌音さん。先生やお友だちは「すごいすごい! おめでとう! と言ってくれた」と笑顔が弾けます。「結果発表のページを何度も見て確認していました。やっぱりうれしかったのかな」とお母さん。審査員からは「のびやかな音」や「しっかりとした音色」が評価されました。
本番でも緊張することなく実力を発揮
お母さんは現在、自宅でピアノ教室を開き、講師として指導にあたっています。音大の副教科でフルートを選択し、卒業後も気が向くと吹いていました。自宅にあったお母さんのフルートを吹いてみたことが、裕軌音さんがフルートを始めたきっかけです。「お母さんに吹いてみる?って聞かれて、楽しそうだったからやってみました」。お母さんは「自分の子どもには、将来ピアノと一緒に演奏できる楽器を習わせようと。みんなで演奏できたら楽しいだろうなと思ったんです」。裕軌音さんのお兄さんはヴァイオリン、そこに裕軌音さんのフルートが加わりました。
うまく音が出せなかった時間を経て、裕軌音さんは「いまは吹くことが楽しくて好き。あと、キラキラピカピカしているところも好き。ほんとうは、金のほうが好き」。現在は総銀のフルートを使用していますが、いずれゴールドのフルートを持ちたいと考えています。
普段は学校から帰宅すると、毎日トータルで3時間ほど練習します。休日は5時間になることも。「休みはないので!」と裕軌音さん。お母さんのお教室のレッスンの合間に音を出すなど、お母さんと調整しながら練習を重ねています。現在2人の先生からレッスンを受けていますが、その一人、細川敦朗先生のレッスンは鈴鹿で行われるため、車で片道2時間ほどかけて通っています。「まだまだたくさんのフォローが必要」とお母さん。親子、二人三脚で歩みを進めています。
幼稚園のころから習っている剣道で腕を鍛える
「これから、いろんな難しい曲に挑戦したい」と裕軌音さん。この夏、全日本管楽コンクールの入賞者記念コンサートで演奏するのは、プーランク作曲『フルートとピアノのためのソナタ 第1楽章 Allegro malinconico』です。「去年の10月から練習している一曲。この子にはちょっと背伸びした曲だけれど、絶対に吹くと聞かなかったので」と、お母さんは裕軌音さんのやる気を尊重しました。
裕軌音さんの憧れは、フランスのフルート奏者、ジャン=ピエール・ランパルです。インターネット上にあがっている、ランパルとプーランクが一緒に演奏するモノクロの動画をいつも観ていると言います。惹かれるのは、スラーやタンキングのきれいさや、ダブルタンキングのうまさです。「会いたいけどな、もう会えんな」。
いつかオーケストラに入ってみんなで吹いてみたい……これも、裕軌音さんの夢のひとつです。「日々の練習では、オーケストラの映像を流して、その演奏に合わせて一緒に吹いています。毎日、大音量で(笑)」とお母さん。「いまは鈴鹿フルートアンサンブルで、ほとんど大人ばかりのなかに小学生1人だけ混ざって一緒に吹かせてもらっています。そこで、YouTubeの収録をしたり、難しい曲を吹いたり。経験を積んでいます」。
今回の全国大会の講評の中には、裕軌音さんの地区大会からの成長を評価するコメントもありました。お母さんは「好きなことはなに?って聞くと、すぐにフルートって答えます。わずか2年で急にここまで来たから、これからどんなふうにこの子が吹けるようになっていくのか、それが一番の楽しみです」。
裕軌音さんはこれからのことについて「またコンクールに挑戦したい。金賞をとりたい」。そして「世界一の奏者になりたい!」。フルートのコンクールの最高峰と言われるジャン=ピエール・ランパル国際フルートコンクールで、一位になることが目標です。「フルートはずっと続けます! 死ぬまで!」と笑顔で言いました。
元気いっぱい夢にむかって
インタビュー中、何度もすてきな笑顔を見せてくれた裕軌音さん。好きという気持ちやうまくなりたいという気持ち。その気持ちの強さに比例して、もしかしたらそれ以上に、子どもは大人が想像できないくらいの成長を見せることがあります。だからこそ、子どものときの“時間”はとても貴重だと感じます。純粋な気持ちそのままに世界一を目指す裕軌音さんを、これからも応援しています。
※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは6月下旬に行いました。
全国大会での吉田裕軌音さんの演奏はこちら。