全日本管楽コンクール

加藤大智さん

大学生・院生の部1位は、クラリネットを演奏した加藤大智さん。現在、龍谷大学の4回生です(エントリー時は3回生)。動画による審査は関西在住の大智さんにとって、移動の有無や自分自身の演奏を何度も見返し勉強できる点でメリットがあったと言います。普段は大学の吹奏楽部でハードな練習をこなす大智さんに、オンラインでお話を聞きました。 

加藤大智さん

「当日は、かなり緊張していました」と全国大会を振り返る大智さん。どんなコンクールでも緊張はしますが、今回は第1回目の開催であることが、ややプレッシャーだったと言います。「でも、そのなかでも力は出しきれたという手応えはありました。いい経験になったと思います」。

大学入学当初からコロナ禍に突入した大智さんのような学生たちにとって、この3年のあいだ、対面での演奏は大きく制限されました。だからこそ「人前で演奏できるのは、とてもうれしい」。その機会を大切に楽しむためにも、本番前は舞台袖でストレッチをして、身体をほぐしてから舞台に立ちます。今回は、地区大会、全国大会ともに、審査員から「最初から最後まで引き込まれた」「楽器を自由自在に操り音楽が溢れていた」「演奏もダイナミックで興味深いパフォーマンス」と、大智さんのステージに惹きつけられた様子が伝わる講評が続きました。

人前で演奏できることの喜び

クラリネットを始めたのは、中学生のとき。お母さんがクラリネット奏者の大智さんは、幼いころからクラリネットの音を聴いて過ごしてきました。そうして自然と興味を持ち、小学生のころに、自分も吹いてみたいとお母さんに何度か頼んでみましたが、「母は、あんまり小さいうちからやらせたくなかったみたいで(笑)。まだ口も小さいから、中学生になったら始めなさいと言われていました」。プロの奏者として活動するお母さんだからこそ、楽器には始めるのにふさわしいタイミングがあると考えていました。「でも、いざ中学に入学して、吹奏楽部の入部体験で初めてクラリネットを吹いたら、まったく音が鳴らなかったんです。いろいろな楽器を吹かせてもらって、ほかの楽器はぜんぶ鳴ったのに。当時は反抗期だったから、それが悔しくて、母に負けたくないという気持ちが湧いて(笑)、そのまま入部してクラリネットパートに入りました」。

その後、部活動以外でもクラリネットのレッスンを受けるようになり、コンクールにも挑戦。これまでに数々の入賞、優勝経験があります。自分のことを「できないときには、できるまでやってやろうという性格」と分析する大智さん。これまで、苦しいと感じたことはあまりありません。「音色がすごく好き。木の柔らかい音が、クラリネットの好きなところです。それに、聴いてくださるひとがいて、演奏する自分たちがいる。そこが一番ありがたいことだし、一番楽しいことです」。

大智さんがかつて反発していたお母さんは、大智さんの師匠でもあります。「自分にとっていちばん身近なプロ奏者。師匠であり、目標であり、母であり。いまは尊敬しています」と大智さん。「自宅の自分の部屋で練習していると、リビングにいた母が部屋にやって来て、そこは違う、と言われることは日常茶飯事(笑)。晩ご飯を食べるときにも、あの演奏はこうだとか、こうしたほうがいいとか。ぼくはふつうの会話をしながら食べたいんですけど……笑」。コンクールのあとには、どんな結果であっても何か言われることはあまりなく、いつも演奏そのものを見てくれていると言います。今回の結果についてはもちろん喜んでくれたものの、「母には緊張していたことがバレバレで(笑)、ガチガチだったねと笑われました。まず肩の力を抜きなさい、と」。いつものように、次につながるアドバイスをしてくれました。

中学卒業後の進路として音楽高校や音楽大学への進学を考えたこともありましたが、いわゆる普通校を選びました。「音楽だけでなくたくさんの経験を積んでおきたかったことと、龍谷大学吹奏楽部への憧れもあったので、一般大学に進むことを決めました」と大智さん。憧れを現実のものとしたいま「音楽ももちろんですが、音楽以外の経験も積むことができ、とても満足しています」。

さまざまな経験が音楽の糧に

現在所属する龍谷大学吹奏楽部は、総勢200名ほどの大所帯です。大学吹奏楽部の部員数としては国内で一、二の多さで、コンクールなどでは常勝のトップレベルです。「練習はかなりハードですが、人数が多いぶん楽しさもあります。パートごとの競争も激しいけれど、助けあいながら高めあっている雰囲気。やっぱり、だれかといっしょに演奏するというのは、すごく楽しい」と大智さん。現在、4回生。就職活動も考慮し、今回のコンクール出場をひと区切りにするつもりです。「音楽はこれからもずっと続けたい。それなら仕事にしたほうがいいと思って、いまは目標を定めて準備しているところです」。

助けあい高めあう大切な存在

将来に向けての準備のひとつとして、この夏、マスタークラスのレッスンを受けにフランスのニースを訪ねることが決まっています。「いま使っているクラリネットはフランス製。ぼくの憧れの奏者がフランス出身だったり、おなじ楽器を使っていたり。日本からフランスへ留学して、帰国して演奏活動している方もいたり。目標とする人でフランスにルーツがある人が多くて、自分はフランスをたどった人の音が好きなんだなと。だから、フランスへ行ってみたかった。今回は一週間ほどですが、すごく楽しみです」。いずれ長期滞在して、本場の音楽を学ぶというビジョンを描いています。「音楽家は、人に音を届ける仕事。音楽を通じて生活や心を豊かにしたり、クラリネットの音色で聴いてくださる人を癒せるような奏者になりたい。言葉ではないコミュニケーションツールとして、人をつなげられるような音楽を奏でたいし、自分自身も音楽活動を通して人間関係を広げられたらいいなと思います」。

音楽はずっと続けていく

 

大智さんとお母様のほほえましいエピソードに、こちらまであたたかい気持ちになりました。ご家族がプロの演奏家である場合、その関わりかたはそれぞれ。適度な距離感を保つことは家族だからこそ難しいこともありますが、大智さんとお母様の関わりかたは理想的に感じました。大智さんの今後のビジョンは明確です。現実となる日を楽しみにしています。

※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは6月下旬に行いました。

全国大会での加藤大智さんの演奏はこちら