全日本管楽コンクール

小山功起さん

⼀般部⾨1位は、フルートで出場した⼩⼭功起さんです。昨年春に、武蔵野⾳楽⼤学を卒業したばかり。今回は、難易度の⾼い作品を⾼いテクニックでエネルギッシュに演奏したことが、評価されました。お仕事の合間に、オンラインでお話を伺いました。

⼩⼭功起さん

地区⼤会、全国⼤会ともに⼩⼭さんが演奏したのは、カルク=エラート作曲「30のカプリス Op.107 第30番 シャコンヌ」です。難曲とされるフルート作品ですが、⼩⼭さんにとっては⼤学受験の際に吹いたり、⼤学⼊学後はもちろん、卒業前などにもたびたび⼈前で演奏する機会があって、⾃分のレパートリーとして⼤切にしたいと思っている⼀曲です。審査員からは⾼評価でしたが、⼩⼭さん⾃⾝はこの結果に、「びっくりしました。⾃分よりも上⼿な演奏をされていた⽅々に申し訳ないような気持ちです……。でも、このような賞をいただけたことへの責任と⾃覚をもって、⾃分を⽀えてくださるたくさんの⽅々への感謝の気持ちを忘れず、さらに上を⽬指していきたいです」と真摯に語ります。

⼤学卒業後、陸上⾃衛隊⾳楽隊に⼊隊した⼩⼭さん。普段は隊員としての任務をこなしながら、フルートの練習をしています。「⼤学を卒業して師匠から離れ、⾃分で曲をさらって勉強しなければいけないことが増えました。そんなときに、レッスンを受けずに⾃分で曲をつくりあげてコンクールという舞台に出たら、どう評価してくださるかと思い出場しました」。どんな演奏家も、いつかは師匠から巣⽴ちます。⼩⼭さんは、そうしてひとりになったときに、⾃分でいかに⾳楽をつくりあげていくか、その上で⾃分の演奏をどう評価してもらえるかが⼤事だと考えています。「レッスンありきとなると、先⽣から⾔われたことだけにとらわれてしまいがちです。あくまで、作曲家とのあいだに⾃分が考える⾳楽をつくりあげて、⾃分なりの演奏を⽬指したいと思いました」。

フルートとの出会いは、おばあちゃんの家です。「むかし祖⺟がフルートをやっていたみたいで。⼩学校卒業の直前にたまたま祖⺟の家に眠っていたフルートを⾒つけて、⾃分もやってみたいと思ったのが、フルートを始めたきっかけです」。初めて⼿にしたときは、⾒た⽬も⾳もきれいなところに魅⼒を感じたと⾔います。中学校に⼊学すると、迷わず吹奏楽部に⼊部しフルートを担当。中学2年⽣のころから、習いごとのひとつとして個⼈レッスンを受けるようになりました。ご⾃⾝を「しゃべることがあんまり得意ではない」と⼩⼭さん。その代わりの伝達⽅法や表現⽅法として、フルートを⼀⽣ものにしたいという思いが芽⽣えていきます。中学卒業後は、武蔵野⾳楽⼤学附属⾼等学校に⼊学。⾳楽の道に進みました。

舞台経験も多く積んだ音高時代

⾼校の定期演奏会

順調に⼤学まで進学した⼩⼭さんですが、⼤学卒業直前につらい経験をします。卒業演奏会の出演をかけたオーディションで、4年間で⼀番いい演奏ができたと確信し、師匠からも褒められたにもかかわらず、卒演の舞台に乗ることができなかったのです。「数カ月の間、悔やんでいました」と振り返ります。そんなときでも、⼼を癒してくれるのは、やはり⾳楽です。フルートの作品だけではなくオーケストラや吹奏楽など、特に⼩⼭さんが好きなバロック・古典時代の作品やモーツァルトの作品を聴くことで、すこしずつ気持ちを切り替えることができると⾔います。

⼤学の定期演奏会

⼤学の卒業試験

「楽器を吹いているときにだけ⾃分が⾃分の世界にのめり込むことができるワクワク感や、つらいことがあったときに元気づけられる魔法のような素晴らしさがあります。そして、練習すればするほど、それらの楽しさや気持ちよさが増していくところが好きです」と⼩⼭さん。忙しい⽇々ですが、いまのところ仕事と⾳楽をうまく両⽴させることができていると⾔います。

普段は、楽器練習はもちろん、ランニングや筋トレなどの体⼒錬成を取り⼊れて、あえて毎⽇の練習メニューを変えています。「例えば、フルートならタファネル・ゴーベール、トレバー・ワイなどの教則本のみに時間をかけたり、エチュードやいろいろな時代の曲をひっぱりだして、冒頭部だけをさらいながらメインの曲をやったり。そして最後に、⾃分の勉強している曲を録⾳して、あとで聴くようにしています」。⾃衛隊に⼊隊したことで、⾝体の鍛えかたや使いかたを知ったと⾔います。「フルートだけではなく楽器を演奏する際には、体幹を意識することが⼤事だと⾔われています。体幹を鍛えることで⾝体の軸が定まって、⾳楽のつくりかたや演奏における表現に⽣かせると感じます」。

国の式典や記念⾏事の場で演奏する機会が多い⼩⼭さん。ただ美しい⾳楽を奏でたり、技術的にうまく演奏したりすることだけが⽬標ではなく、演奏の⽬的や演奏そのものに対する⾼い意識を持っています。「多くの⽅々を元気づけられるような、また、つらく苦しい思いをした⽅々に癒しを与えられるようなプレイヤーになりたいです。そして、⾳楽で世界を平和にすることのできるようなアーティストになりたいです」。

⾳楽で元気と癒し、そして平和を

 

お仕事での立場上、国を背負っているという意識が高く、だからこそ音楽を通じた平和への想いも感じられるインタビューでした。小山さんの静かな佇まいの中にある熱い気持ちや強い意志が、きっと演奏に表れるのですね。音楽で世界を平和に、その平和な世界にまた音楽があふれる。そんな素敵な未来を、皆で目指したいものです。

※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは7月上旬に行いました。

全国大会での⼩⼭功起さんの演奏はこちら