全日本管楽コンクール

藤野ことのさん

藤野ことのさんは現在、加古川市立中部中学校に通う3年生です(エントリー時は2年生)。最優秀賞の結果を受けて、その翌日には学校から保護者全員に受賞を報告するメールが送信されたり、校門横に大きな横断幕が張りだされたりして、学校全体が祝福モードだったと言います。いつもそばでサポートするお父様と一緒に、お話を聞かせてくれました。

 藤野ことのさん

ことのさんが所属する加古川市立中部中学校吹奏楽部は、コンクールで優秀な成績をおさめる常連で、全国トップレベルです。吹奏楽部として横断幕が掲げられることはよくありますが、ことのさん個人を祝う横断幕を見て「すごくうれしかった」と振り返ります。お父さんも「普段は防犯をメインにした注意喚起のメールがほとんどだから、特別な感じがしました」と喜びます。

全国大会のステージでは、これまでやってきたことがじゅうぶんに出せた一方、いくつかうまくいかなかった点があり、演奏を終えたあとは悔しさがありました。だからこそ、結果を見た瞬間は「安心した」とことのさん。吹奏楽部の顧問の先生からは「やったね! すごいね! おめでとう! これからは謙虚な気持ちを大切に」と声をかけられました。

ことのさんが本格的にクラリネットを始めて、まだ2年です。小学校の金管バンドで演奏の楽しさを知り、中学で入部した吹奏楽部で、生まれて初めてクラリネットを見て、その音を聴きました。「きれいな形と音で、ぜったいにクラリネットを吹きたいと思いました」。

小学校の金管バンドではアルトホルンを担当

強豪校の部活は、ハードです。朝7時から1時間、放課後に2時間半、練習します。演奏会やコンクールも多く、本番にむけて合奏やパート練習をこなします。さらに、ことのさんは帰宅後に1時間の練習を欠かさないようにしています。基礎練習を中心に、3年生になった現在は、高校受験の準備として、ピアノの練習や楽典、聴音などの勉強に時間を割く日々です。

土曜日は授業がないぶんさらにハードになりますが、「しんどいなぁと思うこともめっちゃあるけど……学校ではみんなががんばっているから、自分もがんばろうと思います」とことのさん。「ひとりだとつらくなってしまうこともあるかもしれないけれど、仲間がいっしょだから切磋琢磨できる」とお父さんも話します。
それに、クラリネットの音にも癒されています。「クラリネットの音はやさしいから、自分で吹いているときも、だれかが吹くのを聴いているときも、とても落ち着いた気分になります」。

ことのさんが感じるクラリネットの魅力は、「音域が広くて、人それぞれの個性や自分の好みの音色に変えられるところ。とても奥が深い楽器です。そのぶん難しいけれど、だからこそ、理想の音が出せたときにはうれしくてしかたがないです」。ことのさんが理想とする音は、「遠くまでよく響いて、丸く柔らかい音」。その音までの道のりは「まだまだ」と言いますが、目標ははっきりしています。

クラリネットアンサンブルコンクール全国1位
(左がことのさん)

ことのさん以外の家族は「音楽センス、ゼロ(笑)」とお父さん。唯一、ことのさんのひいおじいちゃんが趣味で三味線を弾いていましたが、ことのさんの音楽的才能については「なぜ??という感じ(笑)」。おばあちゃんの影響で、6年ほど日本舞踊を習っていたことのさん。「舞台に立ったり、本番に臨んだりする度胸とか、音楽を聴く力は、日舞で養われたかもしれない」とお父さんは分析します。

小学生のときに習っていた日本舞踊

とはいえ、本番はやはり緊張します。ことのさんの本番前のルーティンは「憧れの先輩の動画を見て、先輩になりきる」。サックスを担当していた、部活の一学年上の先輩。クラリネットとおなじ管楽器ではありますが、「おなじ楽器の動画だとプレッシャーがかかりすぎてしまって、失敗した経験があって。先輩の演奏はとても上手で、動画を観ると落ち着けます」。現在も先輩は音楽を続けていて、連絡を取りあう頼れる存在です。

吹奏楽部の定期演奏会で今回のソロ曲を披露

今後は、音楽コースのある高校、音大への進学を目指し、いずれはプロのクラリネット奏者としてソロでもオケでも活躍することが、ことのさんの夢です。「まだまだ勉強不足で、いろんなことを表現するのは難しいけれど、わたしの演奏を聴いて幸せな気持ちになってもらえたらうれしい」とことのさん。

お父さんは「好きなことを仕事にできたらすばらしい。自分が満足いくまで、とことんやってほしいなと思います。それを目指すうえで、わたしも妻も、家族みんなで全力でサポートしたい」。演奏会やコンクールの本番は、毎回観に行き、そのたびに上達しているのがよくわかると言います。「遠方だと宿泊や交通の手配もするし、荷物の持ち運びから、現地で練習できるカラオケボックス探しと、いたれりつくせり。完全にマネージャーです(笑)。でも、ぼく自身がいちばん楽しんでいます。10代の多感な時期に、娘とふたりで出かけたり話したりできるのは、父親としてはうれしい。ときどき、うっとうしいとか言われますけど(笑)」。家族の全力のサポートを受けて、ことのさんは力強く歩みを進めます。

 

お父さんの、ことのさんへの愛情がよく伝わるインタビューでした。言葉少なにお話することのさんを、お父さんがフォロー。きっと音楽にも、まさに二人三脚で向きあっているのですね。ご自身のことをマネージャーと言ったお父さんの表情が、とてもうれしそうだったのが印象的でした。お二人いっしょに夢をつかむ日が、楽しみですね。

※文中の学年・年齢は、エントリー時のものです。
※インタビューは6月中旬に行いました。

全国大会での藤野ことのさんの演奏はこちら