小学生部門の最優秀賞金賞はフルートの島田健太郎さん。現在は、富山大学教育学部附属中学校の1年生です(当コンクールのエントリー時は同附属小学校6年生)。一つひとつの質問に対して言葉を選びながら丁寧に答えてくれる姿が印象的だった健太郎さん。彼が楽器を手にし、今回の結果に至るまでの道のりは、日々の積み重ねと独自の感性が織りなす物語がありました。

島田健太郎さん
健太郎さんがフルートという楽器に出会ったのは、小学校3年生の時。当時、学校の吹奏楽部に入部した健太郎さんが最初に担当することになったのは、実はフルートではなくトランペットでしたが、当時の顧問の先生の勧めによりフルートへと転向することになりました。健太郎さん自身、テレビでオーケストラの演奏やクラシック音楽の番組をよく見ていたそうで、画面の向こうで奏でられる音楽の世界に、幼い頃から憧れを抱いていたといいます。特に、多くの楽器が調和して一つの音楽を作り上げるオーケストラの響きには、特別な魅力を感じていたという健太郎さん。部活動での練習に加え、その後は個人レッスンにも通い始めました。

いろいろな演奏経験を積むことができた、小学校の吹奏楽部
現在、健太郎さんは中学校の1年生ですが、進学した中学校には残念ながら吹奏楽部が無いとのこと。しかし、健太郎さんはそこで立ち止まることなく、新たな環境で自身の感性を磨く道を選びました。なんと、健太郎さんが中学校で入部したのは美術部。
健太郎さんが語ってくれた美術と音楽の共通点は、非常に興味深いものでした。「美術は、一つひとつ細かなところにこだわって重ねていくことで1枚の絵を完成させますが、それが音楽を作り上げていく作業とよく似ていると思います」。
さらに、この「細部を積み上げて全体を構築する」という感覚は、健太郎さんが大好きだというゲーム『マインクラフト』にも通じるところがあります。『マインクラフト』は、ブロックやパーツを一つひとつ積み上げ、自分の頭の中でイメージした建築物などを具現化していくことができるゲームです。
フルートの演奏においては、楽譜に書かれた一つひとつの音符、強弱記号、アーティキュレーションを丁寧に読み解き、音を重ねていくことで一つの曲という作品を完成させていきます。美術での描画、ゲームでの建築、そしてフルートでの演奏。これらは健太郎さんの中で「イメージを形にする」という一本の線でつながっており、美術部での活動や趣味の時間が、結果として健太郎さんの音楽的感性をより豊かに、多角的なものにしているようでした。

ソロ・コンクールには5年生から挑戦
普段の練習については、週に一度の個人レッスンに加え、自宅でもたとえ短い時間であっても毎日欠かさず楽器に触れるようにしているそう。日々の練習は平均して1日1、2時間ほど行っており、ロングトーンや音階などの基礎練習に重きを置いています。
曲の練習の中で特に大切にしているのは、ただ漫然と音を出すのではなく、楽譜の向こう側にある意図を汲み取ること。例えば、楽譜に「ドルチェ(甘く、柔らかく)」という指示があった場合、具体的にどのような息遣いで、どのような音色やニュアンスで吹けばその表現になるのか。それらを深く考え、試行錯誤を繰り返します。
今回のコンクールへの出場を決めたきっかけは、これまで経験のなかった「動画審査」という形式に挑戦してみようという、お母さまからの勧めだったそう。選曲に関しては、先生からの指定ではなく、健太郎さん自身が「吹いてみたい」と強く願った、C.シャミナードの『コンチェルティーノ Op107』(カットあり)を選びました。自分が心から好きだと思える曲だからこそ、練習にも熱が入ります。速いパッセージや難しい運指を克服するために、とにかく反復練習を行いました。
また今回の曲作りにおいては、特に「情景描写」を意識したと語る健太郎さん。演奏中に思い描いていたのは、広大な草原が広がる風景でした。風が吹き抜け、草がなびくような自然の情景を音に乗せようと、イメージを膨らませながら練習を重ねたそう。美術部で培った絵を描く感性が、ここでも存分に発揮されたのかもしれません。

絵を描いていると気持ちが落ち着くそう。この時はリスを描いている最中
本番では、健太郎さんは深く曲に没入して演奏しました。しかし、演奏を終えた直後の健太郎さんの手応えは、意外なことに「失敗した」というものでした。健太郎さん自身の言葉を借りれば、「詰めが甘い部分」があり、細かいミスをしてしまったと感じていたのです。さらに、制限時間内に演奏をおさめるためにカットした部分まで吹いてしまったそう。お母さまは「すごく音が響いていたので、気持ちよかったんだろうなぁと思って」とその時の様子を振り返ります。そのため、優勝という結果を聞いた時は「びっくりした」と健太郎さんとお母さまは笑います。
これまでの音楽生活を振り返ると、意外にも楽しいことばかりではなかったそう。特に小学校時代、吹奏楽部で部長を務めていた時の苦労は並大抵のものではなかったようです。下級生、特に3年生や4年生といった小さな子どもたちも含まれる大所帯の部員をまとめることは、精神的にも大きな負担でした。部員全員の気持ちを一つにし、同じ方向を向いて演奏を作り上げる難しさ。練習がうまくいかず、辛い思いをしたこともありました。しかし、そうした苦労を乗り越え、全国大会の開催された大阪城ホールや札幌コンサートホールKitaraといった大舞台で演奏した経験は、今の健太郎さんの大きな糧となっています。集団の中で音楽を作る難しさを知っているからこそ、1人で音楽と向き合うソロの演奏においても、その構成力や表現力が生きているのでしょう。また、ピアノ伴奏と呼吸を合わせる際にも、相手の音を聴き、調和を図るというアンサンブルの能力が発揮されていることは間違いありません。

フルートが本当に大好きで、音符やフルートが描いてある物はついつい買ってしまう
という健太郎さん
今回のコンクールの結果を受け、ご家族や先生も大変喜ばれたそうです。まだ中学1年生。これから学業などのプレッシャーが本格化する前の今、健太郎さんは純粋に音楽と向き合う
時間を楽しんでいるように見えました。
インタビューの最後に、今後の目標や夢についてうかがうと、健太郎さんの口から迷いなく出てきた言葉は、「オーケストラの奏者になりたい」という夢でした。幼い頃にテレビで見て憧れた、あの大編成のオーケストラの一員として、音の重なりの中に身を置きたい。ソロとして自分だけの世界を表現することも素晴らしいけれど、多くの奏者と共に一つの壮大な音楽を作り上げる喜びに、健太郎さんは強く惹かれているようです。
現在、学校には吹奏楽部がありませんが、高校選びの際には音楽を共にできる仲間のいる学校や、音大を目指せる学校を視野に入れているとのこと。これからもコンクールへの挑戦を続けながら、着実にその夢に向かって歩んでいくことでしょう。
好きなフルート奏者として、世界的な名手であるエマニュエル・パユ氏の名前を挙げてくれた健太郎さん。豊かな感性をさらに磨いて、憧れのパユ氏のように多彩な音色を聴かせてくれるのを楽しみにしています。
全国大会での島田健太郎さんの演奏はこちら。

